人は古来自然に畏敬と愛おしみの念をもち、仲間との連帯を大切にして生きてきました。そしてそれを地域の特性と深く結びついた歌謡、舞踊、演劇などの藝能によって表現し、共有することで自らの社会における位置を確認してきました。

日本でも各地に民俗芸能が生まれ、それが舞楽や能などさまざまなジャンルの藝能として、数百年のあいだに徐々に高度な形態のものへと発展してきました。その多様性は驚くばかりであり、その全体があたかも大河のように現在まで流れ続けています。

その中心的流れのひとつが日本舞踊です。それはさまざまな近接した藝能の要素を取り込みながら、日本人の感性、とりわけ繊細さと洗練さを純化した独自の藝能として様式化されてきました。しかもそこには東(江戸文化)と西(上方文化)などの地域の特性や歴史を包み込んだ幅と深さをもっています。

価値感やライフスタイルが大きく変わりつつある現在を日本人として、賢く、美しく、生きていくために、いま一度先達が魂を注ぎ込んできた日本舞踊の魅力を味わい直してはいかがでしょう。伝統とは時代を超えてひとの心を豊かにするものであり、常に鑑賞され革新されることでその命を保っていくのです。

公益社団法人日本舞踊協会 会長 近藤こんどう誠一せいいち